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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)6204号 判決

原告

小野尊志

被告

朝日町運輸倉庫株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは連帯して原告に対し、金一五八万八三七四円及び内金一四四万八三七四円につき、被告朝日町運輸倉庫株式会社について平成五年七月一三日から、被告河野幸雄について同月一五日からいずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一九分し、その一〇を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告らは連携して原告に対し、金三〇〇万円及び内金二七〇万円につき、被告朝日町運輸倉庫株式会社(以下「被告会社」という。)について平成五年七月一三日から、被告河野について同月一五日からいずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え(内金請求)。

第二事案の概要

本件は、被告河野が勤務先である被告会社の保有する普通貨物自動車(以下「被告車」という。)を運転して交差点を直進通過しようとした際、交差道路を右側から直進してきた原告が運転する普通貨物自動車(以下「原告車」という。)と出会頭に衝突し、原告が負傷した事故について、原告が、被告河野に対して民法七〇九条に基づき、被告会社に対して自賠法三条、民法七一五条に基づきそれぞれ損害賠償を請求したものである。

一  争いのない事実

1  交通事故の発生

日時 平成四年一〇月二八日午前八時三〇分ころ

場所 大阪府茨木市横江一丁目二番先交差点

態様 被告が被告車を運転して一時停止の標識のある見通しの悪い交差点を一時停止することなく、時速約二五キロメートルの速度で直進通過したため、交差道路を右側から時速約一五キロメートルの速度で直進してきた原告が運転する原告車と出会頭に衝突し、原告が負傷した。

2  責任

被告河野は民法七〇九条に基づき、被告会社は自賠法三条、民法七一五条に基づきそれぞれ本件事故に関して原告に生じた損害を賠償する責任がある。

3  損害の填補

原告は、被告会社から一三〇万円の支払を受けた。また、被告会社は、本件事故による原告の治療費として、五〇万七二四〇円を支払つた。

二  争点

1  原告の損害額(休業損害、慰謝料、弁護士費用)(原告は、本件事故当時、熟練の大工で、一カ月平均七九万六八七五円の収入を得ていたが、本件事故により、胸部打撲症、腹部打撲症の傷害を負い、本件事故当日から平成五年六月七日まで通院治療し、右期間を休業したとして、これを前提に休業損害、慰謝料を請求する。これに対して、被告らは、原告の休業損害、慰謝料は、平成四年一二月末日までの通院期間、休業期間を前提に算定すべきであり、その基礎となる収入額も、大工の仕事が一年の内でもばらつきがあることから、原告が確定申告をしていない以上、本件事故当時の五九歳男子の平均賃金によるべきであると主張する。)

2  過失相殺(被告らは、原告にも、交通整理の行われていない見通しの悪い交差点に進入する際、右方道路の安全を確認して進行すべき注意義務があるのに、これを怠つて本件事故を発生させた過失があるとして、相当程度の過失相殺をすべきであると主張する。これに対して、原告は、自己が安全のために十分注意を払つていたとし、被告河野が一時停止するか、もつと減速していれば本件事故は避けられたとして、原告には何らの過失がないと主張する。)

第三争点に対する判断

一  証拠(甲一、二、三の1ないし3、七、八、一〇ないし一二、乙一の1ないし7、二の1、2、三の1、3ないし5、7、8、10、四、検乙一の1ないし12、原告本人)によれば、以下の事実が認められる。

1  本件事故状況

本件事故現場は、別紙図面のとおり、東西に伸びるセンターラインのある道路(以下「東西道路」という。)と、南北に伸びるセンターラインのある道路(以下「南北道路」という。)とが交差した信号機による交通整理の行われていない交差点であり、本件交差点東詰付近の東西道路側には、一時停止の標識が設置されている。また、本件交差点の南東角付近には建物があるため、東西道路を本件交差点に向かつて西進してくる車両と、南北道路を本件交差点に向かつて北進してくる車両とは、互いに見通しが悪くなつている。本件事故当時、被告河野は、被告車(長さ八・六メートル、幅二・三メートル、高さ三・四メートル、最大積載量三・五トン)に約一・五トンの荷物を積載して東西道路を西進し、先行する大型ダンプカーに追従しつつ、本件事故現場の手前約二九メートルの別紙図面〈1〉地点(以下、別紙図面上の位置は、同図面記載の記号のみで表示する。)に差しかかつた。その際、被告河野は、本件交差点を認めたことから、減速し、〈1〉地点から約八・六メートル先の〈2〉地点に差しかかつた際、進路前方約一六・七メートルの〈A〉地点を先行する大型ダンプカーが減速して本件交差点に進入するのを認めた。そこで、被告河野は、大型ダンプカーに続いて本件交差点を通過できると判断し、さらに減速したものの、一時停止することなく、〈2〉地点から約一五・六メートル先(乙四の実況見分調書に添付された交通事故現場見取図の図面上の計測による。)の〈3〉地点まで走行した。そして、被告河野は、〈3〉地点を時速約二五キロメートルの速度で進行していた際、進路左前方約五・一メートルの〈ア〉地点を原告車が本件交差点に向かつて北進してくるのを認め、急ブレーキをかけたが間に合わず、〈3〉地点から約四・八メートル先の〈4〉地点まで進行した被告車の左前側面と、〈ア〉地点から約三メートル先の〈イ〉地点まで走行してきた原告車の右前部とが衝突した。右衝突後、被告車は、〈4〉地点から約三・五メートル先の〈5〉地点に停止し、原告車は、左側に振られ、〈イ〉地点から約二・五メートル離れた〈ウ〉地点に停止した。他方、原告は、シートベルトを着用して原告車(長さ四・四六メートル、幅一・六九メートル、高さ一・九二メートル)を運転し、南北道路を北進して本件交差点南詰付近に差しかかつた。その際、原告は、東西道路側には一時停止の標識が設置されていることを知つていたことから、時速約一五キロメートルの速度で本件交差点を直進通過しようとしたところ、前記のとおり、右方道路から進行してきた被告車を発見し、急ブレーキをかけたが間に合わず、衝突した。右衝突の結果、原告車は、左前フエンダーが凹損し、被告車は、左前フエンダーの凹損と左前照灯の割れ等の損傷が生じた。原告は、原告車の修理費として三八万四一二〇円を支払つた。

2  原告の受傷及び治療経過等

原告は、本件事故当日、はたて医院で受診した。右初診時に、原告は右側胸部から右側腹部にかけての疼痛を訴えており、レントゲン検査では明らかな異常所見は認められず、明らかな反射異常も認められなかつたことから、右医院の医師は、胸部打撲症、腹部打撲症の傷病名で、約二週間の安静加療を要する見込みであると診断した。そして、原告は、本件事故当日から平成五年六月一〇日まで右医院に通院(実日数九八日)して理学療法、薬物療法、安静等の治療を受けた。右通院中の平成五年二月八日当時、原告の疼痛は改善傾向が認められたが、強く伸展すると軽度疼痛を訴えており、右医師は、治療をしながらもう少し様子をみる必要があると判断していた。また、右医師は、平成五年一月から軽作業程度の就労が可能であると判断していた。しかし、原告は、その後も疼痛を訴え続け、平成五年二月二〇日ころからは、右第四趾、第五趾の疼痛、右第五指の疼痛と軽度の可動制限が出現してきたと訴えたことから、同年五月二八日、同月三一日に淀川キリスト教病院でMRI検査を受けた結果、頸椎症性変化が認められるものの、神経障害は認められなかつた。このため、淀川キリスト教病院の医師は、原告が同年六月七日から就労可能であると判断した。なお、淀川キリスト教病院において診断された原告の病名は、腰部捻挫、頸椎捻挫であつた。

二  損害

1  休業損害 二五一万一〇九円(請求五九二万三四三七円)

原告は、二〇歳のころから本件事故当時まで、約四〇年間にわたつて大工として働いていた。原告は、平成四年二月から本件事故当時まで、個人経営の「すみとも建設」に、日当二万五〇〇〇円、残業一時間につき三一二五円、交通費は別途支給の約束で働いていた。原告は、「すみとも建設」で働く以前は、特定の建設業者の下で働くのではなく、方々の建設業者や大工仲間からの依頼があれば、日当をもらつて働いていた。原告は、「すみとも建設」から平成四年七月分の給与として八七万八八四五円、同年八、九月分の給与として各八四万八五四〇円を支給されていた。原告は、淀川キリスト教病院で就労可能と判断されてから、すぐに「すみとも建設」とは別のところで大工仕事を再開した(甲五、六、一〇、一一、原告本人)。

右に認定した原告の仕事内容に、前記一1(本件事故状況)で認定した本件事故態様、前記一2(原告の受傷及び治療経過等)で認定した原告の症状、治療内容、通院状況からすると、原告は、本件事故当日から平成四年一二月三一日までの六五日間は、本件事故による受傷のため一〇〇パーセント就労することができなかつたと解されるが、平成五年二月八日当時には、原告の疼痛が、強く伸展すると軽度疼痛を訴える程度に改善していたと解されるうえ、医師は、平成五年一月から軽作業程度の就労が可能であると判断しており、また、本件事故から約四カ月後の平成五年二月二〇日ころから出現した右第四趾、第五趾の疼痛、右第五指の疼痛と軽度の可動制限については、淀川キリスト教病院で行われたMRI検査によつて、頸椎症性変化が認められるものの、神経障害は認められなかつたうえ、右病院が診断した原告の病名が、腰部捻挫、頸椎捻挫であることから、本件事故から約四カ月後に出現した右疼痛等については、本件事故との因果関係のない頸椎症性変化に基づくもので、これが治療を長期化させた可能性も否定できないことからすると、平成五年一月一日から同年二月末までの五九日間について五〇パーセント就労することができなかつた限度で、本件事故との相当因果関係を肯定すべきである(なお、原告は、「すみとも建設」の経営者が高齢であることなどから、原告が軽作業だけに従事することはできなかつたので、休業せざるを得なかつた旨主張し、甲第一〇号証の陳述書、原告本人尋問の結果中には、右主張に沿う部分があるが、右に認定した原告の職業歴からすると、原告が「すみとも建設」で働くようになつたのは、本件事故の約八カ月前からであつて、それ以前は、依頼に応じて就労先を変えていたうえ、原告が本件事故後に仕事を再開した際も、「すみとも建設」とは別のところで働き始めたのであるから、原告が軽作業が可能になつた時点で、その回復度に応じて仕事先を選択して就労することは可能であつたと解されるから、右主張は採用できない。)。

そうすると、本件事故と相当因果関係のある休業損害は、二五一万一〇九円(原告の前記収入状況から、原告の一日当たりの収入は、原告主張の二万六五六二円が相当であり、右日額に本件事故当日から平成四年一二月三一日までの六五日間を適用した一七二万六五三〇円と、右日額に平成五年一月一日から同年二月二八日までの五九日間を適用した一五六万七一五八円に前記稼働可能率五〇パーセントを適用した七八万三五七九円とを加えたもの。円未満切り捨て、以下同じ。)となる。

2  慰謝料 六〇万円(請求八〇万円)

前記一2(原告の受傷及び治療経過等)で認定した原告の症状、治療経過に、前記二1(休業損害)における判示内容、その他一切の事情を考慮すれば、慰謝料としては、六〇万円が相当である。

3  弁護士費用 一四万円(請求三〇万円)

原告の請求額、前記認容額、その他本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、弁護士費用としては、一四万円が相当である。

三  過失相殺

前記一1(本件事故状況)で認定したところによれば、被告河野は、一時停止の標識のある見通しの悪い交差点を一時停止せず、十分に減速しないまま、時速約二五キロメートルの速度で通過しようとして、左方道路から進行してきた原告車と衝突したもので、被告河野の過失は重大であるが、他方、原告も、右方道路の見通しが悪い交差点であつたから、徐行して進行すべきであつた(道路交通法四二条一号)のに、右方道路からの車両が一時停止してくれるものと軽信し、時速約一五キロメートルの速度で本件交差点を通過しようとして被告車と衝突した点で過失があることの諸事情を考慮すれば、本件事故発生について、被告河野には九〇パーセントの、原告には一〇パーセントのそれぞれ過失があると解される。

そうすると、三六一万三四九円(前記二1、2の損害合計額三一一万一〇九円に、損害の公平な分担の見地から前記争いのない治療費五〇万七二四〇円を加えたもの)に右過失割合を適用した過失相殺後の金額は、三二五万五六一四円となる。

四  以上によれば、原告の被告らに対する請求は、一五八万八三七四円(前記過失相殺後の金額三二五万五六一四円から争いのない前記第二の一3の損害填補額合計一八〇万七二四〇円を控除した残額一四四万八三七四円に前記二3の弁護士費用一四万円を加えたもの)と内一四四万八三七四円(前記弁護士費用を控除したもの)につき本件訴状送達の翌日である被告会社について平成五年七月一三日から、被告河野について同月一五日からいずれも支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 安原清蔵)

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